東京地方裁判所 昭和63年(ワ)15241号 判決 1991年2月26日
原告
片桐正樹
同
苫米地勝美
同
本田親光
同
片桐育美
同
林武子
同
武田次郎
同
山口宏
同
中吉苑生
同
木村昭
同
椎名祐二
同
椎名幸江
同
人見すみ
同
株式会社三正
右代表者代表取締役
満井忠男
右一三名訴訟代理人弁護士
関康夫
同
阿部満
被告
真建設株式会社
右代表者代表取締役
真田博義
右訴訟代理人弁護士
古屋倍雄
主文
一 被告は、原告片桐正樹に対し、金八二万八六三〇円及び内金一万四〇〇〇円に対する昭和六一年一二月一日から、内金一万四〇〇〇円に対する昭和六二年一月一日から、内金一万四〇〇〇円に対する同年二月一日から、内金一万四〇〇〇円に対する同年三月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年四月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年五月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年六月一日から、内金三三万一六三〇円に対する同年七月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年八月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年九月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年一〇月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年一一月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年一二月一日から、内金二万四五〇〇円に対する昭和六三年一月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年二月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年三月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年四月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年五月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年六月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年七月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年八月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年九月一日から、内金二万四五〇〇円に対する同年一〇月一日から、各支払済みまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告片桐正樹に対し、金二〇〇万円及びこれに対する昭和六三年一一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は、別紙第一物件目録記載の各土地につき、
1 原告苫米地勝美に対し、別紙登録目録1記載の登記の持分を持分六七九四三分の四一六一の持分全部移転登記に更正する更正登記手続をせよ。
2 原告本田親光に対し、別紙登記目録2記載の登記の持分を持分六七九四三分の三六〇六の持分全部移転登記に更正する更正登記手続をせよ。
3 原告片桐正樹に対し、別紙登記目録3記載の登記の持分を持分六七九四三分の二五四二の持分全部移転登記に更正する更正登記手続をせよ。
4 原告片桐育美に対し、別紙登記目録4記載の登記の持分を持分六七九四三分の一二七一の持分全部移転登記に更正する更正手続をせよ。
5 原告林武子に対し、別紙登記目録5記載の登記の持分を持分六七九四三分の一二七一の持分全部移転登記に更正する更正登記手続をせよ。
6 原告武田次郎に対し、別紙登記目録6記載の登記の持分を持分六七九四三分の四七四一の持分一部移転登記に更正する更正登記手続をせよ。
7 原告山口宏に対し、別紙登記目録7記載の登記の持分を持分六七九四三分の五〇八四の持分全部移転登記に更正する更正登記手続をせよ。
8 原告中吉苑生に対し、別紙登記目録8記載の登記の持分を持分六七九四三分の四七四一の持分全部移転登記に更正する更正登記手続をせよ。
9 原告木村昭に対し、別紙登記目録9記載の登記の持分を持分六七九四三分の五〇八四の持分全部移転登記に更正する更正登記手続をせよ。
10 原告椎名祐二に対し、別紙登記目録10記載の登記の持分を持分六七九四三分の四一二〇の持分全部移転登記に更正する更正登記手続をせよ。
11 原告椎名幸江に対し、別紙登記目録11記載の登記の持分を持分六七九四三分の六二一の持分全部移転登記に更正する更正登記手続をせよ。
12 原告人見すみに対し、別紙登記目録12記載の登記の持分を持分六七九四三分の五〇八四の持分一部移転登記に更正する更正登記手続をせよ。
13 原告株式会社三正に対し、別紙登記目録13記載の登記の持分を持分六七九四三分の四七四一の持分全部移転登記に更正する更正登記手続をせよ。
四 別紙第一物件目録記載の各土地につき、被告の持分は六七九四三分の一二二七四であることを確認する。
五 原告片桐正樹のその余の請求を棄却する。
六 訴訟費用は被告の負担とする。
七 この判決は、第一項及び第二項につき、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一主文第一項、第三項、第四項と同旨
二被告は、原告片桐正樹に対し、金一四一九万五〇〇〇円及びこれに対する昭和六一年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、マンションの区分所有権者ら(原告ら)及びその管理組合の管理者(原告片桐正樹)が、右マンションを分譲した建設会社(被告)に対し、被告が右マンションの共有部分である一階のピロティー部分等を有料駐車場として独占的に使用し、不当利得をあげてきたと主張し、マンション敷地の持分についての更正登記手続及び不当利得の返還を求めたほか、区分所有者でもある被告に対し、未払いの管理費等の支払を求めた事件である。
一争いがない事実等
1 原告片桐正樹の地位(<証拠>)
原告片桐正樹は、別紙第二物件目録一記載の建物(以下「本件マンション」という。)の区分所有者全員によって構成された本件建物、その敷地及び付属施設の管理を行うための団体である真和ハイツ管理組合(以下「本件管理組合」という。)の管理者であり、昭和六二年一〇月一八日、本件管理組合の集会における決議により、管理者として区分所有権者のために、被告に対する管理費等の支払請求(主文第一項)及び不当利得返還請求(主文第二項)の訴えを提起する者とされた。
2 原告ら及び被告の区分所有権(当事者間に争いがない。)
原告らは、本件建物区分所有者であり、その専有する建物部分の表示は、別紙第二物件目録二の2、3、9ないし19記載のとおりである。
他方、被告は、被告所有の別紙第一物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)に、昭和四七年に本件マンションを建築し、同年以降原告らに本件土地及び本件マンションを分譲した不動産売買等を目的とする会社であるとともに、本件建物の区分所有者でもあり、その専有する建物部分の表示は、別紙第二物件目録二の5ないし8記載のとおりである。
3 本件土地の持分の登記(<証拠>)
被告は、昭和四七年以降、まず本件マンションの三、四階部分の分譲を始めたが、その際、床面積の計算に関しては、一階から四階のいずれのフロアーも同一面積であると仮定し、三、四階の専有部分の面積(各一九六四平方メートル(小数点第二位以下切り捨て))を基準にして、一階分の面積を一律に一九六四平方メートル(小数点第二位以下切り捨て)としてこれを四倍し(七八五六平方メートル)、七八五六を本件土地持分の分母とした。そして、被告は一、二階部分の床面積を自己が所有することを前提として、全体の二分の一である七八五六分の三九二八の持分を留保しているとして持分の登記をした。
その後、同様の計算方法により、一、二階も分譲したが、二〇三号ないし二〇六号の各建物は現在も被告が所有している。
現在、原告らの本件土地の持分登記は別紙登記目録記載のとおりであり、被告の持分は七八五六分の二二九五と登記されている。
二争点
1 管理費等の請求の当否
2 原告らの主張する本件マンション一階のピロティー部分は、区分所有者全員の共有であるか否か。
第三争点に対する判断
(争点1について)
一証拠(<省略>)によると、次の事実を認めることができる。
1 昭和六二年二月一日に開催された本件管理組合の集会(以下、単に「集会」という。)において、本件建物における管理費は専有面積一平方メートル当たり一五〇円、修繕積立金は専有面積一平方メートル当たり五〇円とする旨の決議があり、被告の専有する前記二〇三号ないし二〇六号の専有面積に応じた管理費は月額一万八四〇〇円、修繕積立金は月額六一〇〇円とされた(合計二万四五〇〇円)。なお、管理費及び修繕積立金の徴収実施日は同年四月一日とされた(毎月末日限り翌月分払い)。
2 右決議がなされる以前の管理費は、二〇三号室が三五〇〇円、二〇四号室が三五〇〇円、二〇五号室が三〇〇〇円、二〇六号室が四〇〇〇円(合計一万四〇〇〇円)と定められていた(毎月末日限り翌月分払い)が、被告は右管理費につき昭和六一年一二月分から昭和六二年三月分までが未払となっていた。
3 同年五月一〇日に開催された集会において、屋上防水工事の施行に伴う管理組合員の一時負担金に関する決議がなされ、被告持分については三〇万七一三〇円を負担させることとされ、同月三〇日開催された集会において、その支払期限は昭和六二年六月末日と決議された。
二右事実によれば、本件マンションの区分所有者である被告は、管理者たる原告片桐正樹に対し、本件マンションの管理費、修繕積立金及び防水工事の一時負担金として、請求の趣旨第一項記載の金員を支払う義務があるというべきである。
(争点2について)
一証拠(<省略>)によると、次の事実を認めることができる。
1 本件マンションは、北側と南側の二つの構造部分から成っており、右二つの構造部分の間には、玄関ホール、階段等があるほかは、吹き抜け(別紙図面の斜線部分)となっている。
南側の部分は、一階から四階までが全部住居部分となっている。他方、北側の部分は、二階から四階までは居住部分であるが、一階には別紙図面のとおり、北側の二つの入口の間に存在する隔壁、前記玄関ホール・階段等の部分、東西に設けられた高さ約一メートルのコンクリート壁及び別紙図面AないしHの各点に存在する柱によって囲まれた建物内空間部分(本件ピロティー)が存在する。
2 別紙図面の北側の道路と本件ピロティーとの間には、二つの入口(スローブ)が存在するが、右二つの入口のほかには、本件マンションの出入り口はなく、かつ、右の入口から居住部分に行くためには、本件ピロティーを通って前記の玄関ホール・階段に入るほかはない。そして、本件ピロティーの床面はタイル張りとなっているが、西側の入口から玄関ホールまでの間には、別紙図面のとおり、幅約九〇センチメートルにわたって色違いのタイルが張られている。しかし、右色違いのタイル部分と他のピロティー部分とを区別する物理的な構造物は存在しない。
3 被告は、本件ピロティー内を屋内有料駐車場(五台分)として独占的に使用してきたが、駐車場としての区画部分を示す物理的な構造物は全く存在しない。
また、被告は、別紙図面の北側敷地の東端、西端、及び前記スローブで挟まれた部分を屋外有料駐車場(三台分)として独占的に使用してきた。
二右事実によれば、本件ピロティーは、本件マンションの居住者が出入りするために不可欠な通路部分を含んでいるものと認められるから、右通路部分は、構造上区分所有者全員の共用に供されるべき建物部分に該当するというべきである。
もっとも、本件マンションの居住者のために本件ピロティー全体が通路として必要不可欠なものであるとはいい切れず、実際にも被告は本件マンションを建設するに当たり、通路部分を示すものとして、前記のような色違いのタイルを張っていたことが認められる。しかしながら、区分所有権の対象となるためには、その部分について建物の構造部分による一定以上の遮断性が要求されるべきところ、本件ピロティーは、前記のような吹き抜け構造となっているうえに、前記色違いのタイル部分と他の部分との間には、これを区分する何らの物理的な構造物は存在せず、また実際の利用状況を考えても、本件ピロティーの広さ、二つの入口と玄関ホール・階段との位置関係からみて、本件ピロティーのほぼ全域が、本件マンションの居住者の通行の用に供されているものとみることができる。したがって、被告が駐車場として使用してきた本件ピロティー部分が、独立した物的支配に適する程度に他の部分と遮断されているとは到底認め難いところである。
以上によれば、右駐車場部分は、結局のところ、構造上の独立性、利用上の独立性が充足されていないから、被告の専有部分とはなり得ないというべきである。したがって、本件ピロティーは、原告らを含む本件マンションの区分所有者全員の共有に属するものと認めるべきである。
次に、被告が屋外駐車場として使用してきた前記部分は、本件マンションの敷地であるから、原告らを含む本件マンションの区分所有者全員の共有に属することは明らかである。
そして、このような共有部分を被告が独占的に使用することにつき、区分所有者の合意が存在したことを認めるに足りる証拠はない。
三右事実に前記第二の一の3の事実を総合すれば、本件土地についての原告らの持分は、別紙第二物件目録二記載の原告らの専有部分の床面積の割合によるべきである。そして、右専有部分の建物の床面積の合計は、679.34平方メートルであるから、原告らの本件土地の持分は、別表(土地持分表)記載のとおりとなる(被告の持分は、六七九四三分の一二二七四となる)。
よって、原告らの更正登記の請求(主文第三項)及び被告持分の確認の請求(主文第四項)は、いずれも理由がある。
四前記のとおり、被告は、共有部分を駐車場として独占的に使用して駐車料金を徴収してきたところ、被告の右収益は、本件マンションの原告ら区分所有者の共有持分権を侵害することにより得られたものであるから、不当利得に該当するというべきである。
そして、証拠(<省略>)によれば、被告は、遅くとも昭和四八年一月から昭和六一年一一月までの間、右駐車場(八台分)の賃貸により収益をあげてきたこと、駐車場はほぼ満車の状態である期間が多かったことが認められ、これらの事実に前記認定にかかる原告らの持分割合及び右持分の取得時期等を考慮すれば、原告ら区分所有者は、被告の右行為により、二〇〇万円を下らない損害を被ったものと認めるのが相当である。そして、被告が前記の駐車場を使用するにつき、被告に使用権原のないことを認識していたことを認めるに足りる証拠はないから、遅延損害金としては、本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六三年一一月一九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による金員の支払を命じるのが相当である。
よって、管理者たる原告片桐正樹の被告に対する不当利得返還請求は、二〇〇万円及びこれに対する昭和六三年一一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で認容すべきであり、その余の請求は理由がない。
(結語)
よって、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官井上哲男)
別紙
別紙<省略>